すずめの戸締(とじま)り(铃芽户缔)
一日目(ついたちめ)(第一天)
夢で、いつも行(い)く場所(ばしょ)(在梦中经常去的地方)
私(わたし)には、繰(く)り返(かえ)し見(み)る夢(ゆめ)がある。
有一个梦久久地萦绕着我。
見(み)ている最中(さいちゅう)は、夢(ゆめ)だとはたぶん気(き)づいていない。そこでは私(わたし)はまだ子供(こども)で、しかも迷子(まいご)になっている。だから基本(きほん)、悲(かな)しいて不安(ふあん)。でもお気(き)に入りのシーツにくるまっているような、定番(ていばん)めいた安心感(あんしんかん)もその夢(ゆめ)には漂(ただよ)っている。悲(かな)しいのに心地(ここち)が好(よ)い。知(し)らない場所(ばしょ)なのに馴染(なじ)みがある。居(い)てはいけない場所(ばしょ)なのに、いつもでも居(い)たい。それでも子供(こども)の私(わたし)にとっては悲(かな)しみの方(ほう)が勝(か)っているようで、込(こ)み上(あ)げる嗚咽(おえつ)を必死(ひっし)に飲(の)み込(こ)んでいる。私(わたし)の目尻(めじり)には、乾(かわ)いた涙(なみだ)が透明(とうめい)な砂(すな)になってこびりついている。
当我在梦中时,常常无法察觉它是一场梦。在梦中我是一个孩子,而且是一个迷路的孩子。悲伤和不安充斥在我的情绪中,但我却常常会感到沉浸在一种莫名的安心感中,就好像牢牢裹在自己最喜欢的床单中一样。这种感觉让我觉得既悲伤又喜悦,既陌生又熟悉,明明是在一个不应该驻足的地方,却又总想在此停留。但对于身为一个孩子的我来说,悲伤还是战胜了一切的,所以我在拼命地抵抗着那种想要哭泣的感觉。但干燥的泪滴最终还是化为了透明的砂砾,黏在了我的眼角上。
頭(あたま)の上(うえ)では、星(ほし)がぎらぎらと光(ひか)っている。誰(だれ)かのミス(みす)で光量(ひかりりょう)つまみを十倍(じゅうばい)に引(ひ)き上(あ)げられてしまったみたいに、その星空(ほしぞら)はばかみたに眩(まぶ)しい。あまりに眩(まぶ)しくて、一(ひと)つ人(ひと)とつの光(ひかり)からキ(き)ーン(ん)とした音(おと)が染(し)み出(で)ているみたいだ。私(わたし)の耳(みみ)のひだの中(なか)で、星(ほし)の音(おと)と、乾(かわ)いた風(かぜ)と、苦(くる)しそうな私(わたし)の息(いき)づかいと、自分(じぶん)が草(くさ)を踏(ふ)む音(おと)が混(こん)しっている。そう、私(わたし)はずっと、草(くさ)の中(なか)を歩(ある)いているのだ。視界(しかい)の果(は)てには、世界(せかい)をぐるりと縁取(ふちど)ったような山脈(さんみゃく)がある。その奥(おく)には白(しろ)い壁(かべ)みたいな雲(くも)があり、その上(うえ)には黄色(きいろ)い太陽(たいよう)が載(の)っている。満天(まんてん)の星(ほし)と、白(しろ)い雲(くも)と太陽(たいよう)が、同時(どうじ)にある。全部(ぜんぶ)の時間(じかん)が混(ま)じりあったような空(そら)の下(した)を、私(わたし)は歩(ある)き続(つづ)けている。
在我的头上的星空闪闪发亮,亮得就好像是谁把调节光量的旋钮提高了十倍,让那星空炫目得令人发傻。星空耀眼无比,让我感觉似乎有一个人在光芒中发出了巨响。我的耳畔混杂着星星的声音、干燥的风声、我痛苦的呼吸声和脚踩在草地上的噪声。是的,我漫步于一片草原中,在我视野的尽头是环绕着世界连绵不断的山脉。山脉的里面是犹如壁垒一般的白云,云上是黄色的太阳。漫天群星与白云和黄色的太阳同时存在,我继续在这融汇了所有时空的苍穹下漫步。
家(いえ)を見(み)つけると、私(わたし)は窓(まど)から中(なか)を覗(のぞ)き込(こ)む。どの家(いえ)も深(ふか)い緑(みどり)に埋(う)もれている。たいていは窓(まど)ガラス(がらす)(glass)が割(わ)れていて、ちぎれたカ(か)ーテン(てん)(curtain)が小さな音(おと)を立(た)てて風(かぜ)に揺(ゆ)れている。家(いえ)の中(なか)にも雑草(ざっそう)が茂(しげ)っていて、食器(しょっき)とか電子(でんし)ピアノ(ぴあの)とか教科書(きょうかしょ)とかが、不思議(ふしぎ)な真新(まあたら)しきで草(くさ)の間(あいだ)に散(ち)らばっている。おかあさん、と言(い)おうとした声(こえ)が、空気(くうき)が抜(ぬ)けたみたいに掠(かす)れてしまり。
一见到房子,我就从窗子向屋里望去。家家户户都淹没在了翠绿之中。大多数的房子窗子玻璃都已经碎了,残破的窗帘在风中摇曳,发出着轻微的声响。房子里也是杂草丛生,餐具、电子琴、教科书,这些东西不可思议的崭新无比,散落在草丛间。“妈妈。”我想喊一声,但却只是发出了泄了气一般的嘶哑声音。
「おかあさん!」
“妈妈!”
喉(のど)に力(ちから)を込(こ)めて、もう一度大(いちどおお)きく叫(さけ)ぶ。蔦(つた)に覆(おお)われた壁(かべ)に何事(なにごと)もなかったかのように吸い込(こ)まれてしまう。
我再次用力大喊,但声音立刻被周围布满了爬山虎的墙壁吸收,就好像什么也没发生过。
そうやっていくつの家(いえ)を覗(のぞ)き、どれほどの草(くさ)を踏(ふ)み、何度母(なんどはは)を呼(よ)んだことだろう。誰(だれ)も答(こた)えず、誰(だれ)に会(あ)わず、一匹(いっぴき)の動物(どうぶつ)も見なかった。おかあさんと叫(さけ)ぶ私(わたし)の声(こえ)は、雑草(ざっそう)に、崩(くず)れた家々(いえいえ)に、積(つ)み重(かさ)なった車(くるま)に、屋根(やね)に載(の)った漁船(ぎょせん)に、吸い込(こ)まれたままい絕望(絕のぞみ)と一緒(いっしょ)に、淚(らい)がまた迫(せま)り上(あ)がってくる。
我不知道看到过多少这样的房子、踩过多少草、呼唤过多少次母亲了。没有任何人回答回答,也没有遇见任何人,甚至连一只动物都没有看见。呼唤母亲的声音、杂草、倒塌的房屋、叠积在一起的汽车、屋顶上的渔船,汇聚到了一起形成了绝望,寂寥的感觉又临近了。
「おかあさん!ねえ、おかあさん、どこーっ!」
“妈妈!喂!妈妈!你在哪里……”
ぐしゃぐしゃに泣(な)きながら、私(わたし)は歩(ある)く。吐(は)く息(いき)が白(しろ)い。湿(しめ)った息(いき)はすぐに冷(つめ)たくなって、私(わたし)の耳(みみ)の先(さき)をもっと冷(ひ)やす。泥(どろ)が詰(つ)まって黑(くろ)く汚(よご)れた指先(ゆびさき)も、マジックテ(まじっくて)ープ(ぷ)(magic tape)の靴(くつ)を履(は)いた丸(まる)い足先(あしさき)も痛(いた)いほど冷(つめ)たいのに、喉(のど)と心臓(しんぞう)と目(め)の奥(おく)だけが、そこだけの特别(とく别)な病気(びょうき)のように不快(ふかい)に熱(あつ)い。
我一边走一边哭泣着。我的耳尖因为呼出的又寒冷又潮湿的气体而变冷。系着魔术贴的鞋因为沾染了泥土而变黑,我的脚尖也被冻得很疼。但喉咙、心脏和眼睛深处却像有某种疾病一样燥热难耐。
気(き)づけば太陽(たいよう)は雲(くも)の下(した)に沈(しず)み、あたりは透明(とうめい)なレモン(れもん)(lemon)色(いろ)に包(つつ)まれている。頭上(ずじょう)では相変(あいか)わらず、星々(ほしぼし)が乱暴(らんぼう)に光(ひか)っている。私(わたし)は歩(ある)くことにも泣(な)くことにも疲(つか)れ果(は)て、草(くさ)の中(なか)にうずくまっている。ダウンジャケット(だうんじゃけっと)(down jacket)の丸(まる)めた背中(せなか)から、風(かぜ)がちょっとずつ体温(たいおん)を盗(ぬす)み、代(か)わりに無力感(むりょくかん)を吹き込(こ)んでくる。小(ちい)さな体(からだ)が、泥(どろ)に置(お)き換(か)わるように重(おも)くなっていく。
回过神来的时候太阳已经沉到了云下,四周被一种透明的柠檬色包围着。头顶上的星空依旧在无理地闪烁着。我已经走累了,哭也哭不出来了,蹲在了草丛中。风一点点从卷起的羽绒服边钻进我的后背,偷走了我的体温,送来的是深深的无力感。我小小的身体感到沉重,就好像被泥土取代了一样。
——でも、これからだ。
但从现在开始。
離(はな)れたところから自分(じぶん)を観察(かんさつ)しているような気分(きぶん)で、私(わたし)はふと思(おも)う。
我突然意识到,自己好像是在从远处观察自己。
ここからが、この夢(ゆめ)のハイライト(はいらいと)(highlight)だ。私(わたし)の体(からだ)は凍(こご)え、不安(ふあん)と寂(さび)しさの果(は)てに心(こころ)も麻痺(まひ)していく。もうどうてもいいやと、諦(あきら)めが全身(ぜんしん)に広(ひろ)がっていく。でも——。
接下来是这个梦的高潮部分。我的身体已经冻僵了,不安和孤寂感让我的心灵麻木。已经无所谓了吧,放弃的念头在全身蔓延。但是——。
さく、さく、さく、遠(とお)くから小(ちい)さな音(おと)がする。
“吱,吱,吱。”远处传来了微弱的声音。
誰(だれ)かが草原(そうげん)を歩(ある)いてくる。ちくちくと尖(とが)って固(かた)かったはずの雑草(ざっそう)は、その人(ひと)が踏(ふ)むとまるで新緑(しんりょく)の季節(きせつ)のような優(やさ)しく柔(やわ)らかな音(おと)を立(た)てる。両膝(りょうひざ)に埋(う)めた顏(かお)を、私(わたし)は上(あ)げる。足音(あしおと)が近(ちか)づいてくる。私(わたし)はゆっくりと立(た)ち上(あ)がり、振(ふ)り返(かえ)る。目(め)の曇(くも)りを拭(ふ)き取(と)るように、ぎゅっぎゅっと強(つよ)くまばたきをする。揺(ゆ)れる草(くさ)の向(む)こうに、夕焼(ゆうや)け色(いろ)の薄紙(うすがみ)に透(す)かしたような人影(ひとかげ)が見(み)える。ゆったりとした白(しろ)いワンピ(わんぴ)ース(す)(one-piece)が風(かぜ)に丸(まる)く膨(ふく)らみ、金色(こんじき)の光(ひかり)が長(なが)い髪(かみ)を縁取(ふちど)っている。ほっそりと大人(おとな)びたその人(ひと)の口元(くちもと)には、夜明(よあ)けの細(ほそ)い月(つき)みたいに薄(うす)くカ(か)ーブ(ぶ)(curve)した笑(え)みがある。
有一个人从草原上走了过来。应该是那种尖尖的而且还很坚硬的青草,被那个人一踩就会发出宛如初春季节般柔和的声响,我抬起了埋在双膝的头望去。脚步声越来越近了,我慢慢站了起来。为了拭去眼中的阴霾,我使劲地眨眼。摇曳拂动的草丛对面,一个人影展现了出来,如同被晚霞色的薄纸装衬过一样。宽松的连衣裙被风吹得鼓鼓的,金色的光芒洒在她的长发上。那个人显得消瘦而又成熟,嘴角带着一丝如同黎明时的弯月一般的笑容。
「すずめ」
“铃芽!”
名(な)を呼(よ)ばれる。そのとたん、耳(みみ)から、指先(ゆびさき)から、鼻(はな)の頭(あたま)から、その声(こえ)の波(なみ)が触(ふ)れた先端(せんたん)からたちどころに、温(あたた)かなお湯(ゆ)に浸(ひた)ったような心地好(ここちよ)さが全身(ぜんしん)に広(ひろ)がっていく。さっきまで風(かぜ)に混(ま)じっていた雪片(せっぺん)は、いつのまにかピンク(ぴんく)(pink)色(いろ)の花(はな)びらとなってあたりに舞(ま)っている。
我的名字被她呼唤。就在这时,我的耳朵、指尖、鼻尖,在接触到那个声音的一瞬间就立刻有一种如沐春风的感觉,这种感觉迅速地扩散到我的全身。刚才还在漫天飞舞的雪花也不知在何时变成了粉红色的花瓣在空中飘舞。
そうだ。この人(ひと)は。この人(ひと)が。
对了!这个人是!这个人是!
ずっとずっと探していた——
就是我一直在寻找的——
「おかあさん」
“妈妈!”
と呟(つぶや)いた時(とき)には、私(わたし)はもう夢(ゆめ)から覚(さ)めていた。
喃喃自语之时,我已从睡梦中醒来。
翻译:语玲
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